物語るPRは何故上手くいくのか(前編)アナ雪と物語のセオリー
PRやマーケティングの本には、大抵「ストーリーで売れ」と書いてあったり、「共感を呼び起こせ」と書いてあったりします。
しかし、そもそも何故共感させることができると「売れる」のでしょうか。
そして、なぜストーリーを作ると「共感」させることができるのでしょうか。
記者などのメディア担当者はストーリー性のある話を好みます。
むしろその部分が無いと、必要文字数やテープを埋められなくなり、面白いコンテンツ(インタビュー記事であればなおさら)も書けず、読者の反応も悪くなるかもしれません。
企業はいかに「共感」を広報・PRに活かせば良いのでしょうか。
興行収入200億を突破したアナ雪の物語性をテーマに、共感PRの仕組みを紐解いてみたいと思います。
感情は伝染する。共感の鍵はミラーニューロン
今から18年前、イタリアの学者がサルの脳内に、ある神経細胞を発見しました。
この神経細胞は他者の行動を、あたかも自分のものだと認識する働きがあることが分かり「ミラーニューロン」と名付けられました。その後、fMRIの登場により、この細胞はサルだけでなく人間にも存在し、他者の喜怒哀楽も認識することが明らかになってきています。
この細胞は、他者の動作を“真似る”仕組みも持っており、例えば生まれて間もない赤ちゃんが両親の表情や動作を真似るという動作は、このミラーニューロンが働きかけているとされています。
サッカーを観ているとき、人の脳内ではミラーニューロンが運動野を刺激し、あたかも自分がボールを蹴っていると錯覚する仕組みが人体に備わっているわけです。
恋人同士で顔が似る!?
愛犬と飼い主で顔が似てきたり、恋人や夫婦同士で顔付きが似てくると言われるのも、このミラーニューロンの仕業かもしれません。
他人の嫌な口癖を自分でも知らず知らずのうちに口にしてしまっているとき、そこにはミラーニューロンが働いているかもしれません。
ビジネス書や教育書に良く出てくる「自分の周りにいる人材が自分を形成する」という主張も、ミラーニューロンが影響している可能性もあります。
こうした仕組みは、他者の行動を見て物事を学習し、文化を効率良く伝搬していくためのDNAの仕組みだと言われています。
包丁を持っている人がこれから料理をするのか、誰かを刺そうとしているのか、瞬時に判断するために、その文脈(コンテクスト)を理解するためにも必要な細胞というわけです。
こうした経緯から「共感」とは、ミラーニューロンの刺激により起こっていると考えられます。
ミラーニューロンは音にも反応する
そして近年、ミラーニューロンは視覚だけでなく、聴覚(音)でも刺激されることが分かってきたそうです。
動画メディアが強いというのも、雑誌や新聞では伝わらない「音」を伝えているからだとも考えられます。
それで、なぜ売るのか。
企業サイドとしては売上に繋げるため、このミラーニューロンを刺激させることで生活者の共感を呼び起こし、自分ゴト化させ、その消費コストが見返りメリットとイーブン、もしくはそれ以上だと見せることが必要となります。
モノや情報が溢れる中、「何故それを売るのか」という企業行動理由を理解・納得させ、購買してもらうには、ミラーニューロンを刺激してあげる必要があるわけです。
ミラーニューロンの研究は進み、「他者の表情」を見たときにも、まるで自分自身がその表情の感情を持っているかのごとくニューロンが発火し、脳内にその感情が再現されることも分かってきています。
近年問題視されるADHDや自閉症は、このミラーニューロンの損傷により共感力が欠如してしまい、症状が現れるとされる説もあるようです。
アナ雪はミラーニューロンの発火装置!?
興行収入が200億円を突破した『アナと雪の女王』。
このヒットを牽引した大きな理由は、女性からの共感だったと言われています。
そのポイントは音楽やストーリー、リップシンク動画以外にも、
「キャラクターの複雑な表情」にあるのではないかと思います。
当映画のCGでは雪の表現が高く評価されていますが、目線や目の動き、頬や口元といった顔の動きも素晴らしいものがあります。
日本語でもキャラクターの口元に違和感がないのは、CGの口パク(オートリップシンク技術)で、各国の言語の母音に合わせてキャラクターの口元を変化させているかららしいです。
(CG技術の向上で『塔の上のラプンツェル』よりも表情豊かに)
CG技術の発展で、より多彩な表情表現が可能になり、更なるミラーニューロンへの刺激が可能となった、と言っては大げさでしょうか。
特にLet It Goで最後「少しも寒くないわ」といった時の、左眉だけ上げる動作などは本当の人間のように見えます。
ただ、あまりにも人間に似せすぎてしまうと、不気味の谷と呼ばれる「気持ち悪さ」が発生してしまいます。
アナと雪の女王はこの絶妙なラインを狙ってミラーニューロンを刺激し、言葉にできない感情レベルの共感を呼び起こすことに成功したのではないでしょうか。
表情は人間に極限まで近づける一方、目をアーモンド型で大きくディフォルメさせることで、この不気味の谷をクリアしているようにも思えます。
ちょっと長くなりましたので、一旦区切ります。
後編ではアナ雪のストーリーの作られ方と、物語PRの進め方を書いてみます。
後編はコチラ
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物語るPRは何故上手くいくのか(後編)アナ雪と物語のセオリー
前編では、共感とミラーニューロンの関係を記載しました。
後編(この記事)ではその物語性を、どうPRに活用するかを記載してみます。
人は生きる目的を探し続ける
今や信者4億人とも言われる仏教。
その教祖である釈迦は29歳の時、人生の意味に悩み悟りを見つける旅に出ました。
画家のゴーギャンは、ルームメイトのゴッホが耳を切ったことがきっかけとなり生活が一変。
貧困・病気・娘の死などが重なり自殺を決意し、遺作とするべく傑作『われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか』を描き上げました。
種の保存という原始的な回答を抜きにして、人が生きる普遍的な意味合いは、どんな天才であろうと見つけることができないことは、歴史が証明しています。
しかし追求してしまう。
これがDNAの究極的なデザインであり、「物語」の始まりでもあるわけです。
昔々、あるところに物語の法則を発見。
人々を魅了してやまない「ストーリー」。
その物語の共通項を世界で初めて見出したのが、ジョーゼフ・キャンベルという人物です。
ジョーゼフ・キャンベル(1904年~1987年)
人類に受け継がれてきた物語は、古くから「神話」と呼ばれ、人々に伝承されてきました。
神話は人々に勇気を与え、生きるパワーを与えてきました。
キャンベルはこの神話に、ある一定の法則があることを発見したのです。
その法則は歴史的大ヒットを遂げた映画『スターウォーズ』の脚本にも活用されたと言われています。
キャンベルはこの法則を「ヒーローズジャーニー(英雄の旅)」と名付けました。
映画化もされています。
そして後年、ディズニーの「美女と野獣」や「ライオン・キング」の脚本家であるクリストファー・ボグラーという人物が、このキャンベルの法則をマニュアル化し、ハリウッド映画界に持ち込みました。そして今現在、数多くのハリウッド映画にこの法則が活用されています。
日本では、評論家の大塚 英志さんが『ストーリーメーカー』などで、物語の作り方マニュアルを解説しています。
ここまでをまとめると、
・人々に共感され、受け入れられる物語には一定の法則がある
・それはマニュアル化されており、比較的簡単に真似することができる
・これを企業のPRにも活かしたほうが良い
ということです。
物語の作り方(ヒーローズ・ジャーニー)
キャンベル、ボグラー、大塚 英志、この3名の主張をまとめると、
「物語とは欠如を埋める冒険であり、出発したら欠如を埋めて帰ってくる」
という流れに要約されるかと思います。
この単純なプロセスをもじることで、「ロードオブザ・リング」や「ハリーポッター」、「千と千尋の神隠し」や「あまちゃん」といった大ヒット作のストーリーが作れてしまうというわけです。
大塚英志さんによると、村上春樹でさえこの法則を後天的に“学習し”、作品を書いていると言っています。
キャンベルが作ったヒーローズ・ジャーニーは、8個のプロセスに分かれたものと、12個に分かれたものの2種類があるようです。
■8プロセスのシナリオ
1.Calling(天命)
2.Commitment(旅の始まり)
3.Threshold(境界線)
4.Guardians(メンター)
5.Demon(悪魔)
6.Transformation(変容)
7.Complete the task(課題完了)
8.Return home(故郷へ帰る)
■12プロセスのシナリオ
第一幕
1.日常の世界
2.冒険への誘い
3.冒険への拒絶
4.賢者との出会い
5.第一関門突破
第二幕
6.試練、仲間、敵対者
7.最も危険な場所への接近
8.最大の試練
9.報酬
第三幕
10.帰路
11.復活
12.帰還
何かしらのきっかけで平凡な日常が壊れ、主人公は冒険の旅に出ます。
関門をクリアしていくと、仲間や敵、メンターなどが現れます。
そして最終ボスを倒すと、当初喪失していたものが取り戻されます。
そして帰り道、ちょっとしたアクシデントがありつつも、最初にいた場所に戻ってこれて、、、めでたしめでたし。
多くの物語の流れがこうしたプロットに集約されるそうです。
個人的に好きな映画でもある、ネバーエンディングストーリーやグーニーズは全てこのプロットで作られていました。
この12プロセスの方を「アナと雪の女王」にも当てはめて分析してみましょう。
※以下、多少ネタバレありです。
<第一幕>
1.日常の世界
子供の頃、姉妹で遊んだ楽しい思い出
引きこもり生活と両親の死
2.冒険への誘い
エルサの戴冠式
アナとハンスの出会い(エルサにとっては妹との離別)
エルサの魔法暴発
3.冒険への拒絶
歌「Let it go」前半で表現
4.賢者との出会い
トロール、オラフの登場
5.第一関門突破
山に登り、深い谷に氷の階段を作り”向こう側”へ渡る
氷城を建設(ここでエルサの悩みが一部解消、王妃の象徴ティアラを喪失)
<第二幕>
6.試練、仲間、敵対者
アナの山登り
オラフ、クリストフ、スヴェンの登場
マシュマロウの出現
7.最も危険な場所への接近
アナの生命の危機
ハンスの結婚詐欺と反逆
8.最大の試練
愛の本質確認
アナの凍結
9.報酬
魔法のコントロール力
アナの復活
<第三幕>
10.帰路
オラフの溶解
11.復活
天候の復活
王国の秩序復活
12.帰還
アレンデール王国の復興
アナとクリストフの恋愛開始
(マシュマロウがエルサが喪失したティアラを取り戻す)
主人公が二人いるため少し矛盾するところもありますが、物語のストーリーとしては「城に行って、魔法のコントロール力を獲得して、帰る」という王道ストーリーをなぞっていることが分かります。
企業の物語活用
話がだいぶ脱線しましたが、企業が物語を活用する場合はもっと簡単に、
第一幕:商品・サービス・起業を思いついたきっかけ、何かしらの欠如
第二幕:パートナー・ライバル・メンターの出現、試練、挫折と再起、成功、報酬(反応)
第三幕:第二幕までにもたらした社会への貢献・反響、次なるストーリーの幕開け
この三幕で構成すると良いかもしれません。
スターバックスやブルーボトルコーヒー、アップルなどといった成功物語にも、こうしたストーリーPRが使われています。
特に最近では女性起業家が両親をメンターに設定するケースが増えてきており、家族愛にも繋げることができるため、PRでも受け入れられやすいかもしれません。
個人が物語を埋め込む時代へ
最近では、STORYS.JPなどのサービスも出てきており、物語を個人が作り発信し、収益を得ることができる時代になりました。
従来、作家や映画業界が駆使していたこうした物語技法を、これからは一人一人が個人として活用していく時代に入ったともいえるかもしれません。
その際はきっと、キャンベルの「ヒーローズ・ジャーニー」が強い味方となってくれるはずです。
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