「ゴースト血管」から学ぶNHKのPR効果と需要形成~NHKのオンライン戦略とは~
近年の健康志向に伴い、「スーパーフード」や「腸内フローラ」「マインドフルネス」など、様々な健康ワードが生まれてきました。
様々な最新研究が行われる中、各種研究費がスポンサーに支えられていることからも、こうしたワードの流行は、大きな資本主義を主体として成り立っているのかもしれません。
もし自分がトップメーカーの広報戦略担当で、画期的な科学的発見を得た際、何をキーワードにどうメディアを使い、どうキャズム超えをさせて啓蒙や世論形成を行っていくか。
この流れが悪い方へ向かうと「発掘あるある大辞典」「WELQ」などの問題に繋がる可能性もありますが、NHKスペシャルで認知が広まった「ゴースト血管」をもとに、まずはそのテレビの効果を分析してみたいと思います。
目次
テクノロジーの進化とテレビ映え
「ゴースト血管」とは、毛細血管が幽霊のように消えてしまう現象で、資生堂が大阪大学微生物病研究所の高倉伸幸教授と研究を進めてきた分野ということです。
テクノロジーベンチャーが開発した「血管美人」というツールを使うことで、毛細血管を実際にモニターで確認することができるようになりました。
これはまさにテレビ映えもすることから、これまで2015年に「世界一受けたい授業」、2016年に「主治医が見つかる診療所」と、テレビなどで取り上げられてきました。
この2番組ではお世辞にも大きな口コミに繋がったとはいえませんでしたが、今回のNスペでは視聴率も9.7%まで上昇。Twitter口コミ数は「世界一受けたい授業」の4倍にも跳ね上がり、流行ワードとなり、世間での認知が進んでいる模様です。
今週号の週刊ポストでもゴースト血管が第一特集とされており、シニア世代に効くキーワードになっていることが分かります。
同じテレビでも効果が異なるその要因はどの辺りにあるのでしょうか。
生放送とリアルタイムアンケート
「Nスペ✕生放送✕健康チェック」というのは、このゴースト血管が初めてではなく、「血糖値スパイク」「睡眠負債」「血圧サージ」などのテーマでも過去に放送されています。
各種番組ではWEBでの危険度チェックを事前&本番中に視聴者に実施させ、リアルタイムで集計して放映する手法を取っています。
ツイッターのハッシュタグを活用し、放送中の口コミを促しており、中でも「睡眠負債」の回は最も口コミが発生したケースで、この手法のノウハウの基礎ともなっていると思われます。今でもこのワードでリスティングをかけている寝具メーカーもいます。
テレビ✕ネット✕口コミは最強トリオ
実際に東京都が2016年に調べた健康情報の取得経路は「テレビ」が最も多く、次いで「インターネット」「知人の口コミ」と続きます。未だにテレビの影響力が強いことが分かります。
この上位3つを組み合わせているのが近年の生NHKスペシャルです。
こうした話題はガッテンでやればよい、という声も多数上がっていましたが、健康情報番組を生でやりアンケート結果をリアルタイムで集計させ、参加型にすることに意義があるのでしょう。実際、生放送のあさイチのほうが視聴率も良いですが、主婦層しか伝わらないので幅広く伝えるにはやはりプライムタイムの夜に生でやるのが良いのだと思われます。
時々あるNスペの生放送。
— やざ (@kumiiga) 2018年4月1日
なんか 中途半端な感じがその度にあって。
Nスペってしないでほしい。
#ゴースト血管
この感じはNスペじゃなくガッテンでやる内容な気がする#ゴースト血管
— Honey Bee (@seihou_byakko) 2018年4月1日
「ヤフーニュース特集」の活用
生放送を使ったNスペは、全ての放送においてヤフーニュース(特集)をうまく活用しています。
これまでの放送を見ると放送日前日土曜の午前中にヤフーニュース特集を掲載、スマホなどのタイムライン掲載を利用して、かなりのビューを稼いていると想定されます。
1.放映前日土曜AMにヤフーニュースでタイムラインTOP掲載
2.日曜にNHKスペシャルで生放送
記事の制作は「取材・文=NHKスペシャル「“血圧サージ”が危ない」取材班/編集=Yahoo!ニュース 特集編集部」となっており、NHKとヤフーの共同記事となりますが、事実上、番組放映に合わせてのプロモーションとなっているようです。
PRマークは付いていないので、記事広告ではなく媒体コラボという体でしょうか。
ヤフーニュースは以前のブログでも書きましたが、自社編集機能を持ち始めTHE PAGEや特集枠など日々変化しています。特に特集枠はスマホTOPに上げる大きな枠であり、広報のターゲット枠にもなってくるでしょう。こうしたヤフーニュースの変化はチェックしておきたいところですね。
掲載・放映後の口コミ効果をグラフ化
実際の口コミ効果を口コミ分析ツールのブームリサーチで分析してみると、世界一受けたい授業では1日400件近くであったTwitterの口コミが、NHKスペシャルでは2000件まで跳ね上がり、グーグルによる検索数も比例して上がっていることが分かります。
放送前日だけでもヤフーニュース掲載で口コミは急上昇し、検索もされ初めていることが分かります。
造語によるキャッチーなネーミング
「血糖値スパイク」「血圧サージ」「ゴースト血管」「睡眠負債」
これらに共通することは睡眠負債を除けば、「漢字+カタカナ」の短い造語です。
睡眠負債もかけ合わせであることから、新カテゴリーの啓蒙やPRにはキャッチーな造語がマッチするということが見て取れます。
「メタボリック症候群」と「メタボリックシンドローム」なども、どちらのワードで仕掛けたほうが、より浸透するか考えてみるのも面白いかもしれません。長い場合は短くしたほうが良いようです。
自分ゴト化と解決策の提示
造語を作っても、自分ごとに捉えてもらえなければチャンネルを変えられてしまいます。
ゴースト血管は、「美容」「アンチエイジング」「認知症」「骨粗しょう症」「ガン」など様々な年齢に問題提起できる幅広いテーマとなっています。
今回の口コミ件数を時間別でみると、番組開始直後と番組終了10分前の「スキップで解決できる」という解決策提示の場面で口コミのピークが見られます。
問題を提示しアンケートに参加させ自分ゴト化させて、簡単な解決策で答えを出す、というのがセオリーなのかもしれません。
NHKは狙い目
以前のブログにも書きましたが、NHKは安倍政権に入ってから企業報道の姿勢を変化させ、これまでの報道では出さないようにしてきた、民間企業の社名やサービス紹介などを積極的に取り扱うようになりました。
こうした機会をチャンスと捉え、大手だけでなく中小企業も積極的にNHKをPRターゲットとして狙っていきたいですね。
調査PRは”空気作り”にも最適!?
普段スーツを着ているビジネスパーソンに、明日からジーンズを履いてもらうには、”世の中の空気”を変えていかなくてはなりません。
エジソンはトースターを売るために、メディアを使い「健康のためには1日2食ではなく3食」というキャンペーンを展開、1日3食の文化を”常識“として根付かせ、トースターを世界中でヒットさせたのは有名な話です。
日本のビジネスファッション界では昔はクールビズ、最近ではスポーツ庁が推奨するスニーカー通勤など、ビジネス上のファッション変換期には、賛否両論が起こりながら(起こしながら)、次第に空気が形成され、少数派だったものが多数派となり常識に変わっていきます(もしくは失敗)。
そうした中、ユニクロ社では職場でのジーンズ着用の空気感を醸成するため(と想定される)の、「職場でのジーンズ着用」に関する調査PRを実施していましたので、実際のニュース露出を元に、どのようにメディアが報じたのか分析してみたいと思います。
各社メディアはどう伝えたか時系列でチェック
リリース公開からメディア掲載まで時系列でみていきます。
2017/10/7
■1,000名を対象にネットリサーチで職場のジーンズ着用に関して調査開始
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10/19
■プレスリリースで結果を公開
全国の20~59歳男女1,000人への意識調査 ビジネスシーンでのジーンズはアリかナシか!? 「ビジネスシーンでもジーンズを穿いても良いと思う」75.6% - UNIQLO ユニクロ
リリースタイトルには、ジーンズ着用に対して好意的な「ビジネスシーンでもジーンズを穿いても良いと思う 75.6%」を記載
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同日
■日経電子版に掲載
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■ニューズピックスでピックされる
仕事で「ジーンズ」着用はアリ? 社会人の見解は……
※堀江貴文氏もコメント
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10/20
■ホウドウキョクに掲載され、ヤフーニュースに掲載
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10/21
■DIME掲載
ビジネスシーンでもジーンズを穿くのはアリ?|@DIME アットダイム
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10/23
■マイナビニュース掲載
"職場でジーンズ"はあり? なし? - 働く男女7割超の回答とは? | マイナビニュース
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10/23
■日経MJに掲載
アンケートで世論を可視化し、ニュース化する調査PR
アンケート調査を実施することで、対象者層の現在の「意識」や「実態」の分布を数値化し、見える化することで、新たなニュースソースとしての「PRネタを作り、メディアへ提供し記事掲載を狙うのが一般的な「調査PR」といわれるものになります。
そこには社名の露出(ブランディング)から、今回のような意識醸成まで様々な狙いがあります。
こうした、人の意見や行動などは最終的には、全てベル型曲線の正規分布に帰着すると言われています。
ユーザー層をこの正規分布に当てはめてたのがキャズム理論であり、利用率や普及率が全体の16%を超えたときに、世の中に急速に定着すると言われています。
今回の調査では、
「多くの人(47%)が職場でジーンズを履きたいと思っているが、実際には24.4%しか履けていない(ギャップあり)。その理由としては大半が『なんとなく』や『職場の空気』『周りの目』を挙げている一方、(自分たちでは)7割以上がジーンズ着用には問題ないと認識している。」
という結果となっています。
実際に24.4%がジーンズ着用して出社しているとすると、ビジネスパーソンの4人に一人がジーンズを履いて出社しているわけで、これはすでに「職場ジーンズ」のキャズムの壁を超えたのだとも言えてしまうのかもしれません。
ただ新橋を見ればわかるように、実際の壁はまだまだというのが状況なのかもしれませんが…
調査PRのポイント
長くなりましたがここでPRに戻り、調査PRのポイントを5つに絞ってみました。
ポイント1.ターゲットに”自分ゴト化”してもらえる身近な内容を調査テーマに設定する
今回のテーマは「職場での服装」でした。
時代背景として「働き方改革」や「ビジネス・カジュアル」「スニーカー通勤」などが話題となっている中で、ターゲットも広く、時代性にあった内容であったかと思います。
調査PRのテーマはあまりにニッチなテーマにしてしまうと、メディア側も読者を考えた際に、ニュースとして捉えてもらえない可能性もあります。
なるべくターゲットは広く、なかなか数値化されてない但し関心は高いテーマを設定し、
商品・サービスが売れるための空気作りに繋げるための設計をしていくことがポイントとなるでしょう。
ポイント2.アリ?ナシ?賛否両論ネタでSNS上で議論(コメント)させる
今回のネタもツイッター上で多く取り上げられており、そのコメントの多くが「アリだ」「ナシだ」「いや職種によるだろ」などという”ツッコミ”でした。
当たり前の結果を発信するのでなく、賛否両論が起こる着地を狙うことで、議論の活性を呼び情報拡散に繋げられます。
ポイント3.記念日などに合わせ情報のニュース性を高める
今回は調査実施のタイミングとして、10月26日の「デニムの日」に合わせて調査・発表しています。
記念日や季節性などに絡めて発表することで、「何故今取り上げるのか」という季節ネタとしての根拠も訴求することができます(メディアも記事が書きやすい)。
ポイント4.第三者のコメントで客観的要素を持たせる
今回のプレスリリースでは、企業単独のコメントで終わるのではなく、服装心理カウンセラーの方の客観的なコメントも盛り込んで発信しています。
こちらの過去記事にも記載しましたが、ワイドショーやニュース番組がアナウンサーだけでなくコメンテーターの意見を重宝するように、「第三者意見」をうまく取り入れ、専門家目線での客観的意見を取り入れた内容にすると、メディアも取り上げやすくなるようです。
今回は、なぜ職場ではジーンズを履かないのかという理由分析として、「ビリーフ」 という言葉を使い「論理的理由ではなく、正しいと信じている思い込みや価値観(つまり間違っている)」であると分析しているのがとても興味深いところかと思います。
つまりスーツを着るのは実は日本人特有の思い込みで論理的根拠がない(もっといい服があるぞ!それはジーンズかもよ |ω・`)チラ)ということです。
これをメーカーの立場で言ってしまっては、客観性が出せず信用してくれませんので『第三者意見』をうまく活用することが重要となります。
「第三者の声」のチカラについてはこちらでも記載させていただきましたように、チャルディーニの研究が興味深いです。
ポイント5.空気を大きく変えるためには業界や社会全体で取り組む
今まで常識であった空気を本当に変えていくには、企業1社単独の動きでは困難であり、業界全体で取り組む必要があるかと思います。
今回は伊藤忠商事も「脱スーツ・デー」に取り組んでいるということで、日経電子版の記事には2社の取り組みとして、大きく記事掲載されているのが分かります。
1社だけの動きではなく、全体の動きとしてPRすることで、その社会的影響力と意義は高いニュース性としてメディアにも、消費者にも伝わることでしょう。
さて、こうした脱スーツの動きを踏まえ、当然スーツ業界からの反発も想定されるでしょう。
働き方改革とファッションの関係性がどのように今後消費者に浸透し、空気感が変化していくのか、興味深く見守りたいところです。